雷と女の子 日記男の短編#1

 僕の彼女は雷が苦手である。電話越しに雷を怖がっている彼女を、前にもあったかな、と脆い記憶を掘り起こしながら彼女を元気づけていた。今住んでいるアパートでは雷は遠くに聞こえていて、その雷の下に彼女が住んでいる。京都で同じ大学に通って四年目になる僕たちはそういう距離感で付き合っていた。

 彼女は優秀な人間で、三回生の秋には外資系大手の企業に就職が決まっていた。対する僕は就職先も決まっていない、取得単位数も不十分で、毎日はなんとなく曇って薄暗かった。電話越しに鼻をすすっている音が聞こえた。彼女は雷を怖がって泣いている自分を情けなく思っているようだ。でも彼女を四方八方から悩ませている雷は、依然遠くに聞こえていて、僕はのんきな気持ちだった。あの小さな雷の中に飛び込まなければ彼女に真に寄り添えないことはわかっていたが、僕は行かなかった。

 彼女はどんどん一人で強くなっていって、いつか雷だって跳ね飛ばしてしまうだろう。対して僕はマイペースだからか、曇り空にも雷にも鈍感で、怖いと思うことはなかった。でも怖いと思わないだけで、降りかかる現実はそれなりに残酷なのだろう。