雷と女の子 日記男の短編#1

 僕の彼女は雷が苦手である。電話越しに雷を怖がっている彼女を、前にもあったかな、と脆い記憶を掘り起こしながら彼女を元気づけていた。今住んでいるアパートでは雷は遠くに聞こえていて、その雷の下に彼女が住んでいる。京都で同じ大学に通って四年目になる僕たちはそういう距離感で付き合っていた。

 彼女は優秀な人間で、三回生の秋には外資系大手の企業に就職が決まっていた。対する僕は就職先も決まっていない、取得単位数も不十分で、毎日はなんとなく曇って薄暗かった。電話越しに鼻をすすっている音が聞こえた。彼女は雷を怖がって泣いている自分を情けなく思っているようだ。でも彼女を四方八方から悩ませている雷は、依然遠くに聞こえていて、僕はのんきな気持ちだった。あの小さな雷の中に飛び込まなければ彼女に真に寄り添えないことはわかっていたが、僕は行かなかった。

 彼女はどんどん一人で強くなっていって、いつか雷だって跳ね飛ばしてしまうだろう。対して僕はマイペースだからか、曇り空にも雷にも鈍感で、怖いと思うことはなかった。でも怖いと思わないだけで、降りかかる現実はそれなりに残酷なのだろう。

においをかいでふと思い出した記憶ー日記男#3

お題「においをかいでふと思い出した記憶(めっちゃ短いエピソードでもぜひ聞かせてほしいです)」

 

#3

OXYの洗顔剤で顔を洗うとスースーして気持ちがいい。そしてそのにおいをかぐと、母親の再婚相手の家の風呂を思い出す。僕は母親の再婚相手のことをおっちゃん、と呼んでいる。小学四年生の時に初めておっちゃんに会って、一年後くらいにおっちゃんとお母さんが住む家に泊まった。そこにおいてあった洗顔剤がOXYだった。それで顔を洗うと顔がスースーするのが気持ちよくて好きだった。おっちゃんちの浴室も好きだった、おっちゃんちは一軒家で回りは田んぼばかりだった。浴室の窓から入ってくる空気は涼しいが、寒いこともなく居心地が良くて、あの風呂に入るのが好きになっていた。両親が離婚してから、僕はお父さんの実家に住むことになった。古い家だったのでとにかく寒かった。風呂は特別冷えていて、僕は実家の風呂に入るのが嫌いだった。

大学の入学を機に、部活仲間と銭湯によく行くようになって、シャンプーとボディソープを買うついでにOXYの洗顔剤も一緒に買った。久しぶりにその匂いを嗅いだらおっちゃんの家の風呂を思い出して懐かしくなった。

何もやりたくない時にやることー日記男#2

お題「何もやりたくない時にやること」

 

#2

なろうの小説を一気読みしたり、映画を見たり、音楽を聴いたり。

とにかくコンテンツをを消費して湯水のように時間を使う。しかし、日々の生活にはやらないといけない事がたくさんあるから、必然的にやらないといけないことがあるのに、何もやりたくない時にやること、と言える。つまりは先延ばしである。自身が持つ矮小な可能性を嬉々として無為にする、悪魔の所業である。結論、何もやりたくない時にやることは、自分のの首を絞めることである。

思い出の場所ー日記男#1

お題「思い出の場所」

#1

一番に思い浮かんだ思い出の場所は昔の遊び場の一つだった。小学三年生まで住んでいた団地あるなんとも形容しがたい建造物のそばにあった木の下が思い出の場所である。天気が良くて木陰が涼しそうなその場所を、低い視線から眺めている映像を覚えている。